この記事を読んで少しだけ人生を変えるのに必要な時間は約 6 分です。
「昨年の設備投資が大きかったから、今年のコストは減価償却が乗ってるから昨年より高くなって…云々」
「でも償却費の分は節税になりますから、キャッシュアウトは減って…云々」
って上司と経理の会話で聞いたことありませんか?
減価償却費(げんかしょうきゃくひ)?今年の部署の予算表にそんなの書いてなかったけどな?去年の投資がなんで費用になるの?まだお金払うの?でも節税ってどういう意味?
出た!初心者を苦しめる、会計二大妖怪の一つ「減価償却」(ちなみに、もう一つは「引当金」)
今回の非経理部門のための会計講座は、会計妖怪「減価償却」をやっつけます。
この記事の要約
- 経費とはその年の事業に使ったお金のこと
- 減価償却費って費用だけどお金が出ていくわけではない
- 産業革命が減価償却を生み出した
- 関連本のご紹介
そもそも経費と投資って何だっけ?
減価償却費の説明をする前に、そもそも経費と投資の違いを超ざっくり押さえておきます。
経費も投資もお金が動くことに違いはありませんが、何が違うんでしょうか?
費用、経費とは
経費と費用は厳密には違うのですが、この際どうでもいいってことにしましょう。
なんせ非経理部員ですから。
費用、経費というのは、事業を通じて収益を得るために使うお金のことです。
例えばどういうことでしょう?
「太郎さんはりんごを30円で仕入れて100円で売りました」
のような、絵本のようなシチュエーションを考えてみます。
このりんごの仕入れ30円が費用です。
たとえば、りんごを売る場所代や電気代、従業員の給料なんかもかかるようでしたらそれも費用です。
また費用を考える大事な原則として、実際に使用された分だけが経費として計上されるというがあります。
何に計上されるかというと、利益や税金を計算するのに計上されるのです。
通常、利益や税金などは1年分で計算しますから
「経費はその年の事業のために実際に使われた金額」
と考えておけば概ね大丈夫です。なんせ非経理部員ですから。
投資とは
投資とは、一般的に資産を買うことです。
資産というのは、建物や土地、設備なんかですね。この資産が働いてくれることで、企業は新たに収益を得ることができるわけです。
個人の場合も同じく資産とは富を生むもののことだと「金持ち父さん、貧乏父さん」では言っています。
また先程「買う」という言葉を使いましたが、実はお金自体も資産ですね。
だから、お金という資産を設備なんかの別の資産に交換するというイメージでも良いでしょう。まあ、非経理部員ですから。
資産は分割して経費に計上するそれが減価償却
建物を立てた、設備を導入したなどの大きな投資をして資産を購入したとしましょう。
この資産の購入は、今年の経費として計上すべきでしょうか?
確かにお金は一度に出ていったかもしれませんが、この資産は何年にも渡って使われるのです。
もし購入した年だけに経費とすると、その年は大赤字に見えますね。これでは企業の実態を言い表しているとは言えないので、なんだかおかしな気がしませんか?
そこで出てくるのが「減価償却」。
つまり上の経費のところで説明した、使った分を経費として計上するという考え方を利用して、機械なんかの資産を今年使った分だけ経費に入れる処理をするのです。
たとえば耐用年数が5年の機械を購入した場合、5年にわたって毎年機械の購入用の一部を経費として計上する。そして、機械の帳簿上の価格をその分差し引くという処理をするのです。
この減価償却に計上した分が、ことしの経費にカウントされます。ですから減価償却費は、実際にお金が出ていくわけではありません。
何分割するのかってどうやって決めるの?
なんかちょとわかってきたので、もう少し踏み込んで見ましょう。
では何年かに渡って経費にするのに、何分割すればいいかどうやって決まっているのでしょうか。
ざっくりいうと、どういう資産は何年で償却するか法律で決まっています。
うちは大事に使っているから、償却は長くとか、今年は儲かりすぎたからたくさん償却するって言うわけには行かないのですね。
それから厳密に言えばえんぽつ1本でも資産ではあるのですが、そんな事やっていたらキリがありません。なので日本では10万円未満の資産は、一括して費用に計上するということになっています。
定額法と定率法
それから、分割のやり方にも2つあります。
定額法と定率法です。
定額法は、毎年同じ額を償却するというやり方です。比較的単純な考え方ですね。
たとえば償却5年の機械があったら、その機械の取得額のうち1/5づつ償却します。最終的には帳簿上の価格が1円になるまでこれを毎年続けます。
定率法は、毎年同じパーセンテージを償却するというやり方です。
たとえば償却率40%だとたら、初めの年は機械の取得金額の40%を償却します。翌年は残った60%分のうちの40%、つまり元の取得額の24%を償却します。これを繰り返して、帳簿上の価格が1円になるまで続けます。
この1円に大した意味は無いのですが、資産がまだありますよということわかりやすくするために1円を帳簿上の価格として残すというルールです。
定額法か定率法かは会社によって違います。あなたの会社がどちらを採用しているかは、経理部門の方に聞いてい見てはいかがでしょうか。
減価償却の身近な事例
パソコンを買ったとしましょう。そのパソコンの価格が10万円未満、つまり99,999円までなら全額「消耗品」として減価償却されず費用に計上されます。
10万円以上だとしたら、減価償却されることになります。
パソコンの償却期間は3年とされていますので、定額法なら毎年1/3ずつ償却されます。
たとえば、12万円のパソコンだったとしたら初年度は4万円が減価償却費として経費に計上され、残りの8万円が帳簿上の価格として残ります。
こぼれ話 誰がこんな面倒な減価償却なんて考えたのか?
しかし、この会計妖怪「減価償却」なんて面倒だけどうまくできた仕組みはいつ頃誰が考えたんでしょうか。
答えは、19世紀イギリスの鉄道会社に遡るそうです。
19世紀のイギリスと言えば、産業革命の頃です。
株式会社化された鉄道会社は、一定の利益を毎年出すことを求められました。
ところが、鉄道といえば駅や線路に車両と膨大な投資を必要とします。
その年に投資した分をその年の費用としていたのでは、利益など到底計上する事ができません。
そこで考え出されたのが「減価償却」です。
資産を耐用年数においうじて分割して、費用に計上することで毎年利益を計上することができるようになったのです。
それから機関車は、これまでの馬車なんかとくらべ頑丈で何年も使えるます。取得額を数年にわたって費用にするという考え方も、耐用年数の長い機関車の登場で合理的な考え方になったのでしょう。
この手の興味深いお話がたくさん詰まった面白い本があります。ご興味あれば是非。会計に興味がなくても、単純に読み物として楽しい本です。
会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語 (日本経済新聞出版)
まとめ
最後は歴史の話にまで及びましたが、会計妖怪「減価償却」について身近に感じられるようになったでしょうか。
大きくは
お金→(固定)資産→ことし減価償却した分→費用
という流れになります。
減価償却を理解すると、財務会計全体の理解がすっとわかりやすくなります。
非経理部員ですから、このあたりざっくり理解して経理の皆さんにご迷惑にならないようにしましょう。